2010年08月24日
日本の教育格差
本日読了

橘木俊詔著
『日本の教育格差』
岩波新書 2010年
ここ数年でクローズアップされてきた
「格差社会」の問題。
中でも、親の格差が子どもに影響することの問題が言われて久しい。
授業料が払えず高校を中退せざるをえない家庭の存在、
給食費を払いたくても払えない家庭の存在、
就学援助受給者の急増、
本人の努力などでは正当化できない教育に関する格差は
厳然と存在する。
橘木さんは経済学を中心に活躍する方で、
格差問題など、経済学の視点からさまざまな著書を出してきた。
そんな経済学的な視点から教育格差について考える本が本書だ。
本書では、日本の社会について
①学歴(卒業学校種別)による差
②学校歴(どのような学校か)による差
③専攻による差
に着目し、日本の格差がどのようなものかを追って行く。
さらに、教育の持つ経済的な側面、
つまり、将来自立して経済生活してゆくための教育
という面についても、
高校の職業科、大学の職業教育の可能性などを検討する。
さらに、日本では教育が「私的財産」だと認識される傾向が強いこと、
そのために、家庭の教育費負担を容認し、
国家による教育費負担が先進国に比べて非常に少なく、
奨学金制度なども充実していないため、
教育費が家計にとって非常に大きな負担になる点などを指摘する。
本書において、経済学的な立場も踏まえ、
まず、学歴や学校歴などによる待遇の差を必ずしもすべて排除すべきものであるとは考えず、
むしろ、そういった学校重視の慣習は自然と崩れていっていることを指摘する。
そして、なによりも、全体を通じて
大人になったときに自立して経済生活や社会生活が送れる、
家族や子どもを養ってゆくことができるようにするためには、
どのような教育が現在行われるべきか、目指されるべきかという視点から、
初等・中等教育においては社会の多様性を実感できるような
さまざまな階層の子どもの集まった学校を、
そして、高等学校以降は、将来の職業や広い意味でのキャリアに
繫がってゆくような教育を、
大学でも、進学率が50%を越えている今、
社会に出てから役立つことに直結するような授業を行うように
方針転換する必要があるかもしれないことを
提案する。
教育学の視点であれば、
子どもを社会の都合に合わせて育てるのは教育ではない
と指摘されるようなことであるが、
格差社会を是正するためにも、
広い意味での職業教育の復活や
思い切った教育政策(教員増、公費の追加投入)を提案している。
(それ故高校無償化は評価される)。
つまり、二本立てであり、
まず、どうやって現在の家計負担を軽減するか、
これに対しては「公」の負担を増やす。
さらに、フリーターや不安定な雇用など
学校教育で特別職業に直結する教育を受けなかったがために
安定した職に就けないという事態を避けるために
(あるいは何となく進学することを避けるために)、
キャリア教育、職業教育など
社会生活に直結した教育を再評価すべきであること。
この2本が主な柱であるようである。
職業教育の復活やキャリア教育の重要性は
近年よく指摘されるようになったことである。
確かに、そのような教育は重要であるとは思うが、
果たしてそれが生徒の側からしてどのように評価できるのか
(即ち、高校普通科が生徒や親の希望で増設された経緯があるので、
果たして、実効性があるのか良くわからない。
無理やり手に職をつけさせることはできないだろう。)
教育政策を立案する側にどれほどの意識があるのか
(本書の前提は製造業からサービス業に産業構造が転換しているのは事実なのだから
製造業中心ではなく、サービス業に関する職業教育や
キャリア教育を推進すべきではないかとの認識だが、
政策立案側には「ものづくり1番」を掲げる自民党的な考えや
「日本はものづくりの国」といった認識がまだまだ根強いのではないか)
その辺がやや理想郷のように見えてくる。
でも、目指すべきところをしっかり持って
そこに向けて努力することは大切なことなのだから
「平等の実現」という大きな原則を忘れずに、
より良い教育が実現できるように
という本書の意図は非常にわかりやすい。
本書の中で結構びっくりしたのが所得格差。
さまざまな統計データを用いて格差や現状を実証するのだが、
その中に卒業学校種ごとの生涯賃金の国際比較のようなものがあった。
それによると、日本は「高卒」「短大卒」「大学・院卒」という
学校種間での生涯賃金差が
先進国の中ではかなり低い方なのである。
他の国に比べればあまりないといっても良いほどである。
しかし、実際の実感としてはそんなことないと思う。
いや、働いてないから良くわからないが、
賃金格差は厳然と存在しているという方が実感に近いだろう。
本書では、昇進、管理職、役職、などに就けるかどうかの差、
いわゆる「学校名」による差
(ここでは三極化として
①有名大学
②その他大学・短大
③高卒
という三極化が進んでいるとしており、
「大学」という括りでは①②の両者が含まれるため
高卒との比較の場合あまり賃金格差がないように統計上出るのではないか
という分析。)
そして、主に男女間の格差などが
統計上の賃金格差以上に学校種間での差を広げていると分析している。
個人的には良くわからないが、
どうもそれだけではないような気がしてならない。
そこが若干引っかかりはしたけれど。
新書ゆえにわかりやすくて面白い本です。

橘木俊詔著
『日本の教育格差』
岩波新書 2010年
ここ数年でクローズアップされてきた
「格差社会」の問題。
中でも、親の格差が子どもに影響することの問題が言われて久しい。
授業料が払えず高校を中退せざるをえない家庭の存在、
給食費を払いたくても払えない家庭の存在、
就学援助受給者の急増、
本人の努力などでは正当化できない教育に関する格差は
厳然と存在する。
橘木さんは経済学を中心に活躍する方で、
格差問題など、経済学の視点からさまざまな著書を出してきた。
そんな経済学的な視点から教育格差について考える本が本書だ。
本書では、日本の社会について
①学歴(卒業学校種別)による差
②学校歴(どのような学校か)による差
③専攻による差
に着目し、日本の格差がどのようなものかを追って行く。
さらに、教育の持つ経済的な側面、
つまり、将来自立して経済生活してゆくための教育
という面についても、
高校の職業科、大学の職業教育の可能性などを検討する。
さらに、日本では教育が「私的財産」だと認識される傾向が強いこと、
そのために、家庭の教育費負担を容認し、
国家による教育費負担が先進国に比べて非常に少なく、
奨学金制度なども充実していないため、
教育費が家計にとって非常に大きな負担になる点などを指摘する。
本書において、経済学的な立場も踏まえ、
まず、学歴や学校歴などによる待遇の差を必ずしもすべて排除すべきものであるとは考えず、
むしろ、そういった学校重視の慣習は自然と崩れていっていることを指摘する。
そして、なによりも、全体を通じて
大人になったときに自立して経済生活や社会生活が送れる、
家族や子どもを養ってゆくことができるようにするためには、
どのような教育が現在行われるべきか、目指されるべきかという視点から、
初等・中等教育においては社会の多様性を実感できるような
さまざまな階層の子どもの集まった学校を、
そして、高等学校以降は、将来の職業や広い意味でのキャリアに
繫がってゆくような教育を、
大学でも、進学率が50%を越えている今、
社会に出てから役立つことに直結するような授業を行うように
方針転換する必要があるかもしれないことを
提案する。
教育学の視点であれば、
子どもを社会の都合に合わせて育てるのは教育ではない
と指摘されるようなことであるが、
格差社会を是正するためにも、
広い意味での職業教育の復活や
思い切った教育政策(教員増、公費の追加投入)を提案している。
(それ故高校無償化は評価される)。
つまり、二本立てであり、
まず、どうやって現在の家計負担を軽減するか、
これに対しては「公」の負担を増やす。
さらに、フリーターや不安定な雇用など
学校教育で特別職業に直結する教育を受けなかったがために
安定した職に就けないという事態を避けるために
(あるいは何となく進学することを避けるために)、
キャリア教育、職業教育など
社会生活に直結した教育を再評価すべきであること。
この2本が主な柱であるようである。
職業教育の復活やキャリア教育の重要性は
近年よく指摘されるようになったことである。
確かに、そのような教育は重要であるとは思うが、
果たしてそれが生徒の側からしてどのように評価できるのか
(即ち、高校普通科が生徒や親の希望で増設された経緯があるので、
果たして、実効性があるのか良くわからない。
無理やり手に職をつけさせることはできないだろう。)
教育政策を立案する側にどれほどの意識があるのか
(本書の前提は製造業からサービス業に産業構造が転換しているのは事実なのだから
製造業中心ではなく、サービス業に関する職業教育や
キャリア教育を推進すべきではないかとの認識だが、
政策立案側には「ものづくり1番」を掲げる自民党的な考えや
「日本はものづくりの国」といった認識がまだまだ根強いのではないか)
その辺がやや理想郷のように見えてくる。
でも、目指すべきところをしっかり持って
そこに向けて努力することは大切なことなのだから
「平等の実現」という大きな原則を忘れずに、
より良い教育が実現できるように
という本書の意図は非常にわかりやすい。
本書の中で結構びっくりしたのが所得格差。
さまざまな統計データを用いて格差や現状を実証するのだが、
その中に卒業学校種ごとの生涯賃金の国際比較のようなものがあった。
それによると、日本は「高卒」「短大卒」「大学・院卒」という
学校種間での生涯賃金差が
先進国の中ではかなり低い方なのである。
他の国に比べればあまりないといっても良いほどである。
しかし、実際の実感としてはそんなことないと思う。
いや、働いてないから良くわからないが、
賃金格差は厳然と存在しているという方が実感に近いだろう。
本書では、昇進、管理職、役職、などに就けるかどうかの差、
いわゆる「学校名」による差
(ここでは三極化として
①有名大学
②その他大学・短大
③高卒
という三極化が進んでいるとしており、
「大学」という括りでは①②の両者が含まれるため
高卒との比較の場合あまり賃金格差がないように統計上出るのではないか
という分析。)
そして、主に男女間の格差などが
統計上の賃金格差以上に学校種間での差を広げていると分析している。
個人的には良くわからないが、
どうもそれだけではないような気がしてならない。
そこが若干引っかかりはしたけれど。
新書ゆえにわかりやすくて面白い本です。